COLUMN(コラム)
2025.03.14
弱い乱れの自然対流

- テーマ:弱い乱れの自然対流
- キーワード:建築、室内、空調、自然対流、熱伝達、低Re型乱流モデル
最近の低炭素社会の実現に向けた取り組みでは、複層ガラスや壁の断熱性向上が進み、室内環境を適切に保つことがますます重要になっています。室内環境を保つための冷暖房時の室温や通風による効果の検討にはCFDが非常に有効な手段です。
しかし、CFDを利用する際には壁面での対流による熱伝達現象を正確に予測する必要があります。壁面付近の対流熱伝達は弱い乱れの自然対流により生じるため、壁面付近の流れと熱を精度よく計算することが重要になります。
ここでは、室内空間の温度予測の基礎検証として、正方キャビティによる自然対流のシミュレーションをご紹介します。
解析概要
この事例では、Tianらが行った一辺=750mmの正方キャビティによる自然対流の弱い乱流場*1をCFDで再現し、実験結果との比較により計算精度の検証を行っています。
実験では模式図のように垂直方向壁の片側を温水により温度=50℃で加熱、もう一方を冷水により温度=10℃に冷却し、上下の壁はスチールプレート、スチレンボードとウッドプレートで構成され、雰囲気温度=30℃に設定されています。

この自然対流実験の無次元量などを以下に示します。
レイリ―数がある限界値(臨界レイリ―数)以下では主に熱伝導によって伝わり、限界値以上では対流によって伝達されます。
垂直平板による気体や水では実験的にRa=5×108で層流からの変動が起こり、Ra>1010で完全に乱流に遷移します。
このモデルのレイリー(Ra)数を算出するとRa=1.658×109になるので、乱流に遷移している状態です。

CFDでは以下の計算条件により、定常計算で求めた結果を初期値として時刻=3600秒まで計算しています。物性値は温度ごとのテーブルデータとして定義しており、温度=20℃の値のみを示します。
項目 | 値 |
---|---|
流体 | 空気 |
温度=20℃での物性値 | |
密度 | 1.2047 kg/m^3 |
粘性 | 1.8210E-05 kg/m*s |
体積弾性率 | 3.2000E-03 1/K |
熱伝導率 | 2.5596E-02 W/m*K |
比熱 | 1006.0895 K/kg*K |
乱流モデル | 低Re型RealizableK-ε |
乱れ強さ | 0.001 % |
乱れ長さスケール | 0.001 m |
壁関数 | Van Driest減衰関数 |
物理時間 | 3600 秒 |
キャビティ内の温度分布を動画で示します。加熱面・冷却面では境界層が形成される影響で温度勾配が急峻になり、キャビティ中央部付近では高さ方向に一様な温度成層が形成されていることが分かります。
実験地との比較では、高さ方向平均値温度を見るとか面では2℃程度の差異、幅方向中心平均温度では上面付近で2℃程度の差異があるものの、概ねの傾向をとらえていることがわかります。


参考文献
*1. Y.S.Tian and T.G. Karayiannis, Low turbulence natural convection in an air filled square
Cavity Part I: the thermal and Fluid floow fields, International Journal of Heat and Mass Transfer, 43 (2000) pp.849-866.