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水流による構造物への影響

  • テーマ:水流による構造物への影響
  • キーワード:建築、土木、水力、常流・射流、自然災害、水害、自由表面、VOF
計算対象となる建物周りの自由表面流れ

近年水害が増加しており国土交通省のまとめによると、2019年の水害による被害総額は2兆を超えて統計開始後で最大の被害額となっています。このため水流中に置かれた構造物の健全性評価を事前に予測し対策を講じることが重要になっています。

水流により構造物が受ける影響は、水流による波力(水平方向荷重)と浸水による浮力(垂直方向荷重)になります。この波力・浮力による構造物の滑動や転倒を評価することで、構造物が健全性の判定を行うことが可能になります。ここでは、VOF法による自由表面を考慮した構造物への水流の影響をシミュレーションしています。

概要

今回の計算は、建物上流から水位=65cmで流速=1m/sと4m/sの2つの流速条件で水流を再現し建物に作用する水平力と転倒モーメントを評価しています。
各流速を水位によるフルード数Frで示すと、流速=1m/sでのフルード数Fr=0.397、流速=4m/sではフルード数Fr=1.585となり、フルード数が1より小さい場合が常流、1より大きい場合が射流になり、流速Uと浅水長波の位相速度(波紋が伝わる速さ)√ghの比を表しています。

※船舶で用いる船長によるフルード数とは意味合いがことなります。

常流(深くて遅い水流):

常流では構造物の上流および後流で一帯の水位が上昇します。また、常流では構造物の近傍での局所的な水位の変動は小さく、構造物の後流にはカルマン渦が発生するため渦放出による横揺れを生じます。

射流(浅くて速い水流):

射流では、構造物の後流にケルビン波が発生しますが、その影響は上流側には伝播しません。射流では、構造物の正面での顕著な水位増加と、構造物の背面での顕著な水位低下が同時に発生します。

計算の模式図
  • シミュレーションでは以下の計算条件により過渡計算で時刻=40秒まで計算しています
項目
流体
 温度=20℃での物性値空気
 密度1.2047 kg/m^3
 粘性1.8210E-05 kg/m*s
 密度998.16 kg/m^3
 粘性1.0014E-03 kg/m*s
乱流モデル低Re型RealizableK-ε
 乱れ強さ0.001 %
 乱れ長さスケール0.001 m
壁関数Van Driest減衰関数
物理時間40 秒
計算条件
  • 流速に応じて色分けした水面の挙動を動画で示します。Fr = 0.397のケースでは建物上流・下流で水位が上昇し、建物の近傍での局所的な水位変動は小さく、建物後流にカルマン渦が形成されています。Fr = 1.585のケースでは、建物上流の水位が上昇しますが下流では水位が低下し、建物後流にケルビン波が形成されます。
水面挙動の動画( Fr=0.395 )
水面挙動の動画( Fr=1.585 )
  • 建物に作用する水平力と転倒モーメントを以下に示します。Fr = 0.397のケースでの水平力は時刻=10秒でピークとなり、その後は約8500Nの水平力が発生、転倒モーメントは時刻の経過と共に上昇し時刻=40秒で約1200N*mとなっています。一方Fr = 1.585のケースでは水平力は時刻=5.6秒で約75000Nとなり、その後は約65000Nの水平力が発生、転倒モーメントは時刻=15秒でピークとなり約30000N*mの力が作用しており、射流では構造物の前後の水位差が大きくなり静水圧差によって建物が滑動・転倒しやすいことを示しています。
建物に作用する水平力時刻歴
建物に作用する転倒モーメント時刻歴